世界宗教の社会学入門 第8回 (2002/11/21)
ヨーロッパとキリスト教
テキスト:橋爪大三郎「世界がわかる宗教社会学入門」p. 50-75
1. 救済宗教と戦乱(なぜモンゴル人やバイキングの侵略は消えたのか)
古代世界に戦乱と移動を引き起こした戦闘的民族の侵略
モンゴル人(フン)の侵略によってヨーロッパではゲルマン人の大移動(350 AD~ 500 AD)が引き起こされ西ローマ帝国が亡びました(476年)。チンギス・ハンのモンゴル帝国 (1219-25) は中国、ロシア、イスラム国を亡ぼしヨーロッパに迫りました。
一方、バイキングは800年代から沿岸への侵略を活発化させ、ノルマンディー公国、両シチリア王国、イギリス・ノルマン王朝(1066-1154)、ノブゴロド公国(ロシアの起源)などを征服地に作りました。
救済宗教が戦闘的民族を平和化
しかし、チベット仏教がモンゴルに入り広まった1400年以降、ヴァイキングの根拠地であるスカンジナビア半島にキリスト教が広まった1300年以降は、それぞれの侵略的行為が止まりました。救済宗教は人をおとなしく(馴化)します。それまで人を殺し富を奪うことを目的とした社会生活を止め、救いと倫理的生活態度の目標に方向付けられた社会生活が救済宗教が入ってくることによって形成されるようになるからです。
2. キリスト教とは
通俗的には... イエスの教え(特に罪と愛)に基づき創造神ヤーウェを信じる宗教です。
社会学的には... イエスの倫理的使命預言に基づく他力救済宗教です。イエスの使命預言は倫理的救済に向けられている点が、政治的支配に向けられたムハンマドの使命預言と区別されます。キリスト教の他力には教会の力(カトリック)、信仰の力(ルター)、それに預定の力(カルバン)の3つのタイプがあります。カトリックは最も合理的な教会(制度団体)を形成し、ピューリタンは最も合理的なセクト(自主団体)を形成しました。キリスト教の救済は労働(禁欲)を重んじている点が、瞑想(神秘)を重んじる仏教の救済と区別されます。
イエス(7 BC- 30 AD)... ガリラヤ(イスラエル北部)に大工の子として生まれ、早く亡くなった父の後を継いで大工によって家庭を養いました。しかし30才頃、ヤーウェ神の啓示を受けて、家を離れ、荒れ野生活に入ります。そして35才頃に、伝道を開始し、3年にわたってイスラエルを歩き回りますが、当時の宗教的指導者(ユダヤ教の祭司や教師)によって、十字架上に殺されました。
イエスの死後、パウロ(1AD-66 AD?)やペテロがヨーロッパ都市に伝道を始め、最初はローマ帝国から迫害を受けますが、300年代にはローマ帝国の支配的宗教となりました。
初期担い手... 遍歴手工業者(大工、テント職人)
3. 救済宗教と現世拒否
救済宗教とは、現世と人生の無価値(拒否)を前提とし、そこからの救いを教える宗教です。キリスト教(この世の悪と人の罪の堕落からの変革的救い)と仏教(現世の空しさと人生の無意味からの逃避的救い)が代表的です。
一方、現世を拒否せず、かえって現世の価値に適応しようとしているのが儒教、ヒンズー教であり、現世を志向しそれを政治的に支配しようとしているのがイスラム教、現世においてやがて支配民族になることを望んでいるのがユダヤ教です。ですから儒教、ヒンズー教、イスラム教、ユダヤ教は厳密な意味での救済宗教とは言いません。